山県郡大朝町に、テングシデの群生地があります。一帯は、「大朝のテングシデ群落」とよばれています。同町田原・灰谷地区に自生するカバノキ科クマシデ属の落葉高木、イヌシデの突然変異で、それが代々遺伝して群生しています。その数は100本以上あって、幹が曲がりくねって枝がしな垂れる特徴があります。
突然変異は、通常一代限りですが遺伝するのは、地球上でもここだけだと言われています。まるで別世界に迷い込んだ感覚になります。樹木の形が注連縄に吊るす「紙垂」に似ていること、群生地に異形の者が住んでいるのではないかと思わせることから、「テングシデ」の名がついたといわれています。大変貴重な地域ということで、2000年に国の天然記念物に指定されました。




天狗というと、飛翔することができるなど、超能力の持ち主だと考えられています。容貌は、鼻が高く赤ら顔で高下駄を履いて団扇を持っているといったイメージでしょうか。天狗のルーツは、流れ星の尾説、猿田彦説、インドのガルーダ説、ロシア人説、山伏説と色々な説があるようですが、ここではこの議論は一旦おきます。
神楽の演目の最初に、露払いを舞います。これを舞うのが、天狗の面を被った舞子です。神おろしの神事のあと、演目の最初に舞座を清めるために舞います。天狗の面を被るのは、猿田彦に擬したオマージュです。猿田彦は、天孫降臨の際に天照大御神に遣わされた邇邇芸命を出迎え道案内した国津(地)神です。
こうした行いから、貴人の先に立って道案内をしたりする人を露払いといいます。だから猿田彦が似ているという天狗の面を被るのです。
木の葉の落ちた冬に、このテングシデの群生地に立つと、本当に違う世界に迷い込んだのではと思います。特に雪景色の景観は、筆者は一番のお気に入りです。この地に若芽を出したテングシデを、他所に植えると特異な形態が失われて普通のイヌシデになるそうです。この地の土質が、影響しているのではないかといわれていますが、突然変異の原因と遺伝との相関関係は、明らかにされていません。
ぜひとも訪れて、露払いを舞ってください。


